春の七草と言えば。
やはり七草粥(なくさがゆ)を思い浮かべるでしょうか。
普段、食卓ではお目にかかることのない野草類なども入った七草粥ですが、スーパーなどでは七草粥用に「春の七草」がセットになったものも売られていますので、手軽に食べられるようになりました。
「春の七草粥」とは1月7日の朝に「邪気を祓い息災を願って、春の七草を入れたお粥を食べる」という、お正月行事の一つです。
そこで今日は、どうして七草粥は1月7日に食べるのか?春の七草の種類やその意味などについてお話したいと思います。
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目次
春の七草の種類と意味
一般に「春の七草」と呼ばれているのは以下の7種類です。
芹(せり)
名前の由来:一ヶ所から競り合うように生えるさまからついた名のようです。
別称は「白根草(しろねぐさ)」。
セリは若く柔らかい茎葉の部分を食します。
水分の多い土壌を好む水辺の山菜で、味も香りは三つ葉とよく似ています。
古事記や万葉集にその記録があることから、すでに奈良時代には食用とされていたようです。
年間を通じて野菜として売られていますが、野生の芹は2月~4月の春先が旬、ということです。
野生のセリを食用とする場合は、春先から毒性の強い毒ゼリというのが出てくるようなので注意が必要でしょう。
セリはビタミンCやβカロテン、食物繊維を含み、コレステロールの排出や血糖値の上昇を防ぐ働きがあると言われています。
生薬としては、食欲増進、解熱、神経痛、リューマチ、黄疸(おうだん)などに効果があるとされているようです。
薺(なずな)
名前の由来:撫でたいほど可愛いことから「撫で菜(なでな)」が変化した、夏に枯れて無くなることから「夏無(なつな)」が変化したなど、諸説あります。
別称は「ぺんぺん草」。
ナズナは花が咲く前の柔らかい茎と葉を食します。
江戸時代ではポピュラーな食材だったようで、室町時代にはすでにナズナを粥に入れて食する文化もあったようです。
ナズナは道端などに生える雑草ですので、通常では七草粥のセット以外で販売されることはありませんが、健康食品として流通しているようです。
野生のナズナを食用とする場合は開花前のものが良いようです。
(ナズナの開花時期は1月中旬~春頃)
古い時代には菜として食されていたナズナは、ミネラル、ビタミン、食物繊維がバランスよく含まれ、また鉄も含まれているようです。
生薬としては解熱、利尿、止血などに効果があるとされているようです。
御形(ごぎょう)
名前の由来:「オギョウ(お形/人形)」が訛ったものと言われ、人形は別称からの由来と思われます。
別称は「母子草(ははこぐさ)」。
この名の由来も「母親が子を包み込むさま」「白い綿毛に覆われている葉を乳児の舌に見立てた」など、諸説あります。
古称は「ホウコグサ」。
新芽が這うように育つことから「這う子(はうこ)」が訛ったという説があります。
ゴギョウは若い茎や葉を食します。
冬の水田や道端などで見かけることができ、明治以前には草餅にはゴギョウを使っていたようです。
通常の食用としては七草粥のセット以外で販売されることはありませんが、菜園用・鑑賞用の苗や種が販売されているようです。
野生のゴギョウを食用とする場合は開花前のものが良いようです。
(開花時期は4~6月ごろ)
ゴギョウの成分はあまり詳しく調べられていないようですが、一説によるとフラボノイドの他、ルテオリン、ステロール、葉緑素、ビタミンB、カロテンなどの成分が含まれていると言われています。
生薬としては、咳や痰などの喉の消炎、利尿、などの効果があるとされているようです。
繁縷(はこべら)
名前の由来:「葉配り(はくばり)」が訛ったという説、茎から出る白い糸状のものを「帛(ハク/絹)」に見立て、「ベラ」は箆(へら)状に広がる花弁(はなびら)を指して「帛箆(はくへら)」としたものが転じたとする説など、諸説様々にあります。
別称は「ハコベ」。
ハコベラは葉を食します。
昔よりハコベラは食用の他、炒って粉にしたものに塩を混ぜて歯磨き粉にもしていたようです。
3月ごろから秋にかけて、道端をはじめ原野いたるところに自生しており、食用としては七草粥のセット以外で販売されることはありませんが、菜園用・鑑賞用の苗や種が販売されているようです。
野生のハコベラを食用とする場合は若いものが良いようです。
ハコベラはタンパク質やカルシウム、ビタミン類、鉄分、ミネラルや酵素などの成分が含まれているようです。
生薬としては、抗菌作用があるとされており、歯槽膿漏の予防、湿疹、肌荒れ、切り傷などに効果があるとされているようです。
また、血の道を司どるとも言われ、肝臓のむくみをはじめ、女性の場合では月経の不順、産後の浄血、お乳の出をよくするなどの効果があるともされてるようです。
仏の座(ほとけのざ)
名前の由来:地面に円座状に広がる葉の形状を蓮の花(仏様の座る場)に見立ててついた名のようです。
別称は「田平子(たびらこ)」。
田んぼなどで、放射状に葉が這うように伸びる様子からこの名がついたようです。
ホトケノザは若葉を食します。
田のあぜ道など湿地を好み、春~秋にかけてタンポポに似た黄色い花を咲かせるキク科の植物です。
食用としては七草粥のセット以外で販売されることはありませんが、菜園用・鑑賞用の苗が販売されているようです。
野生のホトケノザを食用とする場合は若葉を選ぶのが良いようです。
一般に知られる紫の花を咲かせるシソ科のホトケノザとは別の種類です。
ホトケノザの成分は詳しく調べられることもないのか、不明です。
生薬として用いられることがあるのかも不明ですが、一説では解熱、解毒、消腫、止痛、解毒、消炎などに効果があるとされているようです。
菘(すずな)
名前の由来:根の形状が鈴、あるいは錫製の丸い容器に似ていることからついた名のようです。
別称は「蕪(かぶ)」。
スズナは主に根の部分を食しますが、葉も食せます。
蕪として年間を通じて野菜として販売されていますが、一般的に冬が旬とされています。
スズナの歴史は古く、縄文時代には伝来し栽培もされていたようです。
野生のスズナを食用とする場合は見つけるのが案外難しいかもしれません。
山間の蕪畑付近の原野であれば、もしかすると自生するものを見つけられるのかもしれませんが…。
花と葉の形状は菜の花にそっくり、ということです。
スズナはビタミンやカリウム葉酸、ジアスターゼ、アミラーゼを含み、腹部にたまったガス抜きなどの整腸作用があると言われています。
またスズナの葉にはビタミンのほかβカロテン、カリウム鉄分の他、根(蕪)の10倍ものカルシウムが含まれているということです。
生薬としては、利尿、便秘、むくみ、冷え性貧血、ストレス軽減、精神安定、しもやけ、あかぎれなどに効果があるとされているようです。
蘿蔔(すずしろ)
名前の由来:その根の白さから「涼白/清白(すずしろ)」とも称されていたことからその名がついたということのようです。
別称は「大根(だいこん)」「干葉(ひば)」
スズシロは主に根の部分を食しますが、葉も食せます。
大根として年間を通じて野菜として販売されていますが、旬は11月~2月ごろということです。
スズシロも歴史は古く、古代エジプト時代に食料として存在していたという記録があり、また日本においては古事記や日本書紀の歌に詠まれているようです。
野生のスズシロを食用とする場合は、「ハマ大根」と呼ばれるものが見つかるようです。(栽培されている大根が野生化したもの、という説がある。)
スズシロは葉の部分にビタミン類、カルシウム、β-カロテン、鉄などの成分が含まれているようです。
また、ジアスターゼという分解酵素が含まれるということから、胃酸過多、胃もたれや、胸やけなどに効果があると言われています。
生薬としては、消化不良、吐血、下痢、冷え性、神経痛、食中毒などに効果があるとされているようです。
春の七草覚え方
最近では家庭科の試験にも出題されることがあるようですね。
覚え方は「セリ、ナズナ / ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ / スズナ、スズシロ / 春の七草」と五・七・五・七・七のリズムで覚えてしまうと良いようです。
七草粥の由来と意味は?
七草粥の風習は、奈良時代の終わりごろに宮中貴族の間で行われたのがその始まりであると言われてます。
その後、江戸時代に正式な節句行事となったことから、庶民にも定着していったということです。
日本には年中行事として5つの節句(五節句)がありますが、1月7日はそのうちのひとつで、「人日の節句(じんじつのせっく)」と呼ばれています。
つまり「春の七草粥」とは、1月7日の朝に春の七草を入れた粥を食べることで、邪気を祓い息災を願う、という年中行事なのです。
どうして七草粥は1月7日に食べるの?
7日が「人日の節句」となり七草粥を食べるようになったのは、古来中国より伝来した風習にあります。
古来中国では1月1日より7日までの間、それぞれの日に割り当てられている動物があり、その日はその動物を殺生してはならない、という風習がありました。
そして7日は「人の日(犯罪者への刑罰を行わない日)」となっており、この日に「七種菜羹(しちしゅのさいこう)」と呼ばれる7種類の菜の吸い物(汁物)を食することで邪気を祓う、とされていました。
こういった風習が、日本古来からあった早春の風習「若菜摘み」(雪の間から芽を出した若菜を摘み、食した)と合わさり、江戸時代には「7日に七草粥を食べ邪気を祓う」という公式の行事となった、ということです。
野生の七草だけで七草粥を作ることはできる?
お気づきの方もいらっしゃるとは思いますが、この七草粥の風習が始まったころというのは旧暦の時代ですので、今の新暦で言えば2月ころ、ということになります。
現代の新暦1月7日はまだ冬の真っ盛りで、どの菜も新芽が出るか出ないか…という時期ですよね。
とは言え案外、各所にて「春の七草集め」をされている方も多数しらっしゃいます。
ですが、やはり「野生のスズナ」は難しいようです。
気候や地域環境にもよるとは思いますが、自生する野生の七草だけで手軽に「春の七草粥」を作ろうとするのは難しいのかもしれませんね。
春の七草まとめ
春の七草は「春の七種(ななくさ)」とも称され、一般に言われる菜にこだわらず「七種類の具」と捉える見方も多くあります。
平安時代の「七種粥」には、粟・黍(キビ)・米・稗(ヒエ)・胡麻・小豆(アズキ)・蓑米(ミノゴメ/「かずのこぐさ」とも呼ばれるイネ科の植物)の7種類が使用されていた、という話もあります。
実際に、1月7日の「人日の節句」で食される食材は各地方ごとに様々で、お粥のほか、お吸い物やお餅を食する地域もあります。
個人的には、せっかくですから揃うのであれば「春の七草」でお粥をいただくと良いとは思うのですが、無理のない範囲で「七種の野菜(具材)」という考え方でも良いように思えます。
要は「節句を祝う」という日本の伝統行事を楽しみながら過ごすことが一番ではないかな、と思います。
お正月に「食べ過ぎた~」という方は、ぜひ、「春の七草粥」で厄払いしながら胃腸をいたわってあげてくださいね!